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新潟県が公表した2025年度の農林水産物輸出額は、前年度より40.2%増え、合計86.9億円となりました。中でも錦鯉は62.8億円に達し、過去最高を更新しています。コメも23.6億円となり、この二品目だけで全体のほぼすべてを占める結果です。輸出先は東アジアと東南アジアが中心で、海外での観賞魚需要の広がりに加え、円安が円換算の金額を押し上げました。ただし、この数字は単なる為替効果だけでなく、新潟産錦鯉が高価格帯の商品として国際市場に定着してきたことも映しています。

引用元: 新潟県、農林水産物輸出実績を公表 錦鯉輸出が過去最高の62.8億円に(Monthly Nishikigoi)

分析・見解

輸出額86.9億円は性格の異なる「錦鯉」と「コメ」の二本柱、成長の作り方が違う

今回の数字で最も重要なのは、輸出額の増加そのものより、新潟県の農林水産物輸出が錦鯉とコメという性格の異なる二本柱で成り立っている点です。錦鯉は生産量を大きく増やさなくても、血統、模様、体型、サイズ、飼育の記録によって単価を引き上げられます。一方、コメは日常的に買い続けてもらいやすい食料品で、品質や産地への信頼を積み重ねることで取引を安定させやすい商品です。高単価の観賞魚と、日常消費に近い農産物を同じ輸出統計でひとまとめにすると見えにくくなりますが、両者は収益の作り方も必要な投資も異なります。

錦鯉の62.8億円は、海外での需要が伸びた結果であると同時に、評価の仕組みが国際的に整った結果でもあります。現地の愛好家や販売業者は、単に魚を買うのではなく、品評会での実績、親魚の血統、生産者への信用、輸送後の状態まで含めて価格を判断します。つまり新潟の産地が輸出しているのは生きた魚だけでなく、選別の技術とブランドの証明です。競りや訪問での商談によって築かれてきた信頼を、写真、動画、個体を識別する番号、飼育記録で裏づけられれば、買い手が現地に来られない場面でも販売の機会を保てます。

円安は売上を押し上げる一方、餌代や輸送費も上げる「二面性」を持つ

ここで見落とせないのが、円安の二面性です。海外の通貨で見た価格が相対的に買いやすくなり、円に換算した売上も膨らみます。しかし、餌、資材、電力、航空輸送、検疫対応にかかる費用も上がりやすく、売上の伸びがそのまま利益の増加になるとは限りません。とくに錦鯉は輸送時間と水質の管理が品質を左右するため、値段の安さを武器に出荷量を増やすより、輸送中に死んでしまう率や到着後の状態を管理して、もう一度買ってもらえる率を高めるほうが理にかなっています。

東アジア・東南アジアが約半分、市場ごとに訴求や輸送方式を変える必要がある

地域の偏りにも注意が必要です。東アジアと東南アジアで約半分を占めるのであれば、この近い市場での強みを生かしつつ、特定地域の景気、規制、為替、富裕層の消費動向の変化に左右されにくい販路も育てる必要があります。欧州や北米では、環境への配慮、動物福祉、輸入手続きの透明性が取引の条件になりやすく、アジア向けと同じ販売資料では信頼を得にくいでしょう。市場ごとに、品種の訴求の仕方、輸送方式、保証の範囲、現地代理店の役割を分けることが求められます。

派手な自動化より記録の標準化が鍵、公表値86.9億円には86.4億円との差も

技術面では、輸出拡大の鍵は派手な自動化よりも記録の標準化です。水温、酸素濃度、給餌、薬浴、選別した日、出荷時の状態を一貫して残し、個体の情報と結びつければ、購入者への説明力が高まります。画像による模様の照合や遠隔での商談も有効ですが、最終的には生産者が積み重ねてきた目利きをデータで補う形が現実的です。県全体の輸出額が伸びた今こそ、個々の生産者の経験を、業界共通の品質基準へと変えられるかどうかが、次の成長を左右します。

なお、錦鯉62.8億円とコメ23.6億円を合計すると86.4億円となり、公表された合計86.9億円とは差があります。集計の区分や端数処理によるものと考えられますが、数字を比べる際は統計の定義を確認すべきです。この小さな差を軽視せず、品目別、国別、数量別、単価別の内訳の開示を進めることが、施策の効果を正しく測るための前提になります。

ビジネスへの影響

売上ではなく利益を生む市場・商品の組み合わせを国別に記録して見極める

生産者や輸出事業者がまず確認すべきなのは、売上額ではなく利益を生む市場と商品の組み合わせです。円安で受注が増えても、輸送費や資材費を差し引いた粗利益が薄ければ、出荷量の拡大はかえって経営を不安定にします。国別に販売単価、輸送費、輸送中の死着や返品の割合、入金までの日数を記録し、利益率の高い顧客を優先する仕組みが必要です。錦鯉では、標準的な個体を広く売る取引と、希少性の高い個体を競りや予約で売る取引を分けるだけでも、価格交渉の基準がはっきりします。

現地代理店は一社に頼らず、検疫・飼育支援・代金回収まで契約に盛り込む

輸出を始める企業は、現地代理店を一社に頼らないことも重要です。代理店の販売力だけでなく、検疫の手続き、到着後の飼育支援、代金の回収、顧客情報の共有範囲を契約に盛り込み、複数の市場で小さく試してから投資を広げるべきです。販売後の飼育相談を有料サービスや継続契約にできれば、魚の一回きりの販売から、設備、飼料、管理の指導を含む長期的な収益へと転換できます。

自治体・業界団体は個体証明や書類の電子化など共同で負担できる仕組みを整える

自治体や業界団体には、海外の展示会への出展支援だけでなく、共通の個体証明、輸出書類の電子化、空港までの集荷体制、トラブル時の補償ルールを整える役割があります。とくに小規模な養鯉場が単独では負担しにくい検疫、翻訳、顧客対応を共同化すれば、質の高い生産者が輸出市場に参加しやすくなります。今回の過去最高を一時的な追い風で終わらせないためには、増産よりも、単価の根拠と再購入につながるサービスを見える形にすることが先決です。

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